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● 週刊ダイヤモンドより
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週刊ダイヤモンド 2011年4月4日
http://diamond.jp/articles/-/11716
電力の供給不足はあと数年続く
首都圏大停電の危機は去らず
東京電力の計画停電は、工場や病院、スーパーなどあらゆる業種を混乱に陥れた。
だがこの騒動は今夏で収まらない。
すでに夏は約1000万キロワットの供給力不足が見えている。
このままでは次の冬、また次の夏と続く。
1~2年ですむ話ではない。
家庭だけではなく産業界が知恵を結集して挑むしかない課題なのだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男、小島健志、柴田むつみ)
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「いちばん困るのは計画停電が計画どおりではないことだ」──。
東京電力管内に製造工場を持つ大手化粧品メーカーの幹部は憤る。
同社では計画停電に合わせて生産シフトを組み直し、工場で働く従業員の勤務シフトも調整している。
しかし、実際には“計画”は頻繁に変更され、“無計画停電”と揶揄されても仕方ない状況だ。
停電が予定されていても前日の正午頃に中止の発表をする場合が多い。
工場では従業員がいなければ製造ラインは動かせない。
急きょ、停電が中止になっても従業員の確保ができずラインを動かすことができないのだ。
そうした状況では、メーカーはただひたすら歯がゆい思いをするほかない。
1日単位での生産計画が立たなければ、事業計画など立つはずもない。
小売り業界にとっても同じだ。
日本スーパーマーケット協会には会員のスーパーから
「正確な停電時間を知りたい」
という問い合わせが多く寄せられている。
「計画停電は未確定部分が多い。
直前に計画停電がなくなっても、パートを確保できないから店が開けられない」(首都圏のスーパー)
のだ。
さらに、スーパー特有の混乱も生じている。
複数店舗を展開するスーパーでは、商品の受発注システムを導入しているところが多いが、停電で店頭のシステム端末が落ちてしまい、商品が発注どおりに店舗に届かないといった混乱も起こっている。
それはそのまま機会ロスとなってしまうため、すべての文書を手書きで修正するなど、膨大な作業負担が発生しているという。
自家発電設備を持つ事業者も多いが、だからといって計画停電の影響を受けないわけではない。
自家発電では、普段使用する量の電力はとうてい確保できないからだ。
「自家発電といったって製造ラインを通常どおりに動かせるわけではない。燃料代もかかる」
と大手精密部品メーカーは頭を抱える。
人の生死にかかわる医療現場でも深刻な影響が出ている。
埼玉県のある病院では、すでに4度の計画停電を経験している。
自家発電設備で電力は確保できるが、発電機が起動するまでに1分程度かかるため、大規模な手術はできない。
また、MRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピュータ断層撮影)などは多くの電力を必要とするため使用を控えているという。
突然電気が止まってしまえばこうした医療機器が故障することもある。
そのため、停電開始時間よりも前に機器の使用をストップしているところも多い。
また、シャットダウンに約30分、再起動に数十分かかる。
機器が使えない時間は停電よりも長いのが実情だ。
「計画停電で病院の機能は3分の1まで縮小する」(神奈川県の病院)。
経営にも響く。
多くの病院では普通の状況でも利益率は2~3%のギリギリの状態で運営している。
このまま停電が頻発すれば手術や検査など診療報酬の高い医療行為ができなくなる。
今後は被災地の患者受け入れも増えてくると予想されている。
埼玉県の病院の関係者は
「患者数は多くても経営が立ち行かない病院が出てくるかもしれない」
と不安な面持ちだ。
だが、残念ながらこうした計画停電による混乱は一過性のものではない。
このままでは確実に来年夏まで続いていく大問題なのだ。
■1~2年ではすまない:露呈した電力供給の限界
東日本大震災発生の翌日、3月12日土曜日の最大電力需要は3420万キロワットに及んだ。
藤本孝・東京電力副社長は青ざめた。
「このまま(需要の増える)月曜日を迎えたら大変なことになる。
とにかく大停電は回避したかった」。
供給力の当初の見立ては3500万キロワットしかなかった。
そこで東電が選んだのが、計画停電という解決策だった。
もともと東電の供給力は総計約6400万キロワットある。
しかし、福島第1原子力発電所と福島第2原発が事故等で停止し、計約910万キロワット分減った。
さらに鹿島、広野、常陸那珂という大型火力発電所も津波の影響で停止、約920万キロワットの供給力が失われた。
被災地の東北電力から電力を送ってもらうこともままならず、14日は約3100万キロワットまで落ちた。
それでは需要と供給が逼迫するとなぜ計画停電を実施しなければならないのだろうか。
まず電力会社には供給義務が課されている。
使う人が使いたいだけの電力を、常に送らなければならない。
しかしながら電気はためておくことができない。
そのため電力会社は、家庭や企業の使用量を予測してそのぶん発電して電気を送る。
これが「同時同量」という大原則だ。
もし、使用量と供給量のバランスが崩れてしまえば、電圧や周波数が乱れ、電気機器の故障や停電につながる。
雷の際に電灯が瞬間的に消えたときはバランスが崩れている証拠だ。
天秤を思い浮かべてほしい。
一方が電気を使う需要側で、もう一方が電気を作って送る供給側とする。
需要側は家庭や企業などバラバラのため調整はできない。
そこで供給側が需要を予測。
秤に重りを入れたりはずしたりするように電力を送り、バランスを取ってきた。
特にピーク需要と呼ばれる1日の中で最も電気が使われる時間に神経をとがらせている。
今の時期であれば午前9~10時と午後6~7時の二つのピークがある。
夏場は冷房を使う午後2時頃だ。
ピーク需要に十分な供給力がなければ、他の時間帯がどうであれ停電してしまう。
繰り返すが電気はためられないからだ。
さて、では今後の見通しはどうなのか。
右の図を見てもらいたい。
過去3ヵ年の電力の最大需要の平均実績と東電の供給力見通しを月ごとに示した。
供給力は最大でも5000万キロワットしか見込めない。
3月末には3800万キロワットまで回復。
4月末までに鹿島火力発電所を再開して約400 万キロワットの供給増を目指す。
ガスタービンの増設や停止していた発電所を動かし7月末には4650万キロワットまで持ち込み、
「5000万キロワットまでなんとか確保したい」(藤本副社長)
という算段だ。
だが、本来であれば4月の供給も約500万キロワット足りない。
夏場に至っては5000万キロワット確保しても例年より750万キロワット足りない。
そのぶんを賄うとすれば、2013年に運転開始予定の計210万キロワットの火力発電所を待つしかない。
大規模な発電所は1~2年で造れるわけではない。
用地取得から設計、建設まで通常なら5~10年かかる。
したがって停電問題はこの夏で終わらない。
ガスタービンの増設を必死で行っているが少なくともこの冬、来年夏、そして再来年へと影響が続く可能性は高いのだ。
そして、供給がないなら需要を調整するしかない。
■産業界による輪番操業等:需要減の抜本対策が必須
真夜中に家族が同じ部屋に集まり、毛布にくるまって寒さに耐え、節電に貢献した──。
こうした家庭も多いだろうが、じつはあまり意味がない。
ピーク需要さえ乗り切ればエアコンを使っても大勢に影響はない。
真夜中まで節電する必要性は低い。
また、東電の販売電力量の家庭用の需要は全体の35%しかない。
残りは工場やオフィスなど業務・産業用がほとんどを占めており、家庭での節電の効果は限定的だ。
今回置かれている状況を整理してみよう。
需給の逼迫した3月17日木曜日。
東京の日平均気温が4.6度と3月とは思えない寒さに包まれたこの日、国は「大停電の恐れがある」と発表し、首都圏は大混乱となった。
鉄道は運行本数が減り、主要駅は人で溢れた。
計画停電は延べ7グループで行われたが、供給力3350万キロワットに対し最大需要は 3330万キロワットと抑え込んだ。
一方、東京の日平均気温が4.4度とほぼ同じだった3月3日木曜日にさかのぼると、最大需要は4890万キロワットだった。
震災前と震災後では、じつに1560万キロワットの需要差が出ている。
東電は
「中身がはっきりとわからない」
とするが、この差はどこからくるのだろうか。
計画停電による需要カットは1グループ最大約500万キロワットと想定される。
だが鉄道や被災地などを除いていたり、そもそも家庭ではすでに節電していたりするので200万~300万キロワットの押し下げ効果しかないだろう。
日本エネルギー経済研究所の試算では、家電製品や照明などをこまめに消すといった節電対策を徹底した場合(約2000万世帯)でも、朝方に380万キロワット、夕方に430万キロワットしかピーク電力を抑制できない。
確かに家庭の節電は大事だが限界があるのだ。
電力に詳しい日本総合研究所の宮内洋宜研究員は
「家庭の節電効果は微々たるものだ」
と指摘する。
すると残りの約1000万キロワット分はどこで削られたのだろうか。
それはやはり工場など産業用の需要に起因するものだろう。
東電はまず、大口顧客に対し「需給調整契約」を発動させた。
これは緊急的な電力不足時に20%以上の需要をカットさせる代わりに、料金を割引するというものだ。
東電関係者によれば、メーカーなど500キロワット以上使う大口のうち契約を結んだ客が約700おり、最大110万キロワットの削減になる。
今は契約分だけでなく、より多くの節電を求めているという。
また、震災によって工場の操業がそもそもストップしていることも忘れてはいけない。
東京商工リサーチの調査では上場企業1597社の7割が今回の震災で被害を受け、「営業・操業停止」が472社に及んだ。
むろん、すべて東電管内というわけではないが、全体で6割を占める業務・産業用需要で仮に3割止まったならば、全体の約2割へ影響を及ぼしていることになる。
右表で試算するように、1日の電力使用量は、機械業全体で476万世帯分、鉄道業では178万世帯分に当たる。
家庭におけるつつましい節電努力に期待するより、業務・産業用での電力使用量削減に手をつけるほうが現実的だろう。
それでは実際にどうすればよいのか。
結論からいえば
「ピークカットかピークシフトしかない」(宮内研究員)
のだ。
まず産業界全体でピーク需要を減らすことに挑むことだ。
営業や操業の停止などで電力の消費量そのものを減らしていかなければならない。
自家発電の導入も効果が出てくるだろう。
総量規制という話も出ているが、いくら全体の電力消費量を抑えても、局所的に需要が伸びれば元も子もない。
またピークシフトも重要だ。
需要のピークをそれぞれの企業がずらすようにする。
一つ目の策が時間だ。サマータイムの導入や休日・大型連休の分散化、夜間操業など時間を分けて需要を分散していく。
もう一つが場所だ。
西日本への移転や海外進出も大きな選択肢となりうる。
産業界全体を同じ方向に向かせるのは難しいが、時間はあまり残っていない。
エルギーに詳しいUBS証券の伊藤敏憲シニアアナリストは
「緊急対策が必要だ。
100万人を移せば約100万キロワット減らせる。
産業界が輪番操業などで需要を2割以上落とさないと解決しない」
と危機感を募らせる。
このままでは、この夏には
「国の中枢の都心3区(千代田・中央・港)を除いて計画停電を実施する可能性もある」(東電)といった事態に陥る。
窓の開かないオフィスビルは蒸し風呂となり、
高層マンションはエレベーターも動かない。
熱中症による死亡も増えるだろう。
なにより、停電による経済の停滞が復興の足かせになることは間違いない。
』
この記事では電力供給不足はあと数年続くという。
ということは、東京デイズニーランドの廃園は決定的であり、東京ドームの身売りは具体性を帯びてくる。
ドームを購入した企業が取り壊し、再開発するというのは大きな確率でありうるということである。
ところで、この記事はその後どうなっていくかは推察していない。
せいぜいのところ「ガスタービンの増設を必死で行う」くらいのことしか書いていない。
それで、解消されるのか、
というとほとんど無理。
ということは「10年での奇跡的復興」などとは夢のまた夢。
さらに加えて、年をへるに従って、設計寿命の原発が止まっていく。
その寿命とはどのくらいかというと、
「我が国では、設計寿命についての定めはありませんが、米国では原子力法(修正法)で、運転認可の期間を最大40年と規定しており、最長20年まで、その更新が認められています。」
とある。
ということは、
あと40年を経るとすべての原発は停止していることになる。
まず、20年の更新は認められない。
それまでの期間の間に、設計期間の過ぎた原発が一基、また一基と止まっていくのである。
それにより、電力事情は年を経るごとに逼迫してくる。
最終的にはどうなるか。
今の電力供給量の7割は非原子力で供給される。
それが、将来に持ち越される。
原発の停止に合わせて非原子力発電所が増設されるが、石油と天然ガスの輸入というネックで8割くらいがせいぜいだろう。
つまり、
「将来の電力は、現時点の8割しかない」
というすさまじいことになる。
しかし、それが現実。
こういう事態に対策はあるのか。
答えは見えている。
「ない」
とすれば、どうしたらいいか。
いくらかの部分を天然ガスと石油で補うにしても、それも焼け石に水ということ。
供給側がお手上げ状態になるとすれば、結果として
「需要側に革命的な変革」
が起こらざるを得なくなる。
それはなにか。
産業構造がガラリと変わる。
何がどう変わるかは分からないが、
そこから日本の変革が起こる、
ということだけは目に見えて分かっている。
未来に現在風の経済発展の構図はない。
よって、現在の論で、将来を語ることは無意味になって’くる。
しいていえば、それは気休めにすぎない。
== 東日本大震災 ==
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